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口から血が糸のように流れ
輪姦

山原良一1


[略歴]

旧三九附団二三三聯隊・三大・第三機関銃中隊 分隊員 兵長

文化 六年 年齢 三十七歳

四所六十三号室 三四0号


三九師団二三二*二三三*聯隊三大隊が,湖北2省五峯3県劉家畔4に侵略したのは,常徳作戦も終わりに近い,一九四三年十一月の末で,第三機関銃中隊が,大風口5を背にした劉家畔の00川べりの七,八軒の百姓家に宿営した時の事である.

村を見守っているようにそびえ立った,大風口山の北方からは,パチパチと豆をいるような機関銃の音と,砲弾の炸裂する音が,昨夜から山々にこだましている. 王家畔6の方から部落を焼く真っ黒い煙が,悪魔のように村々に広がっていた.

汗と油で真っ黒い兵隊が,頬骨を突き出し,掠奪と女を探すのに目の色を変えて,百姓家を駈けずりまわっている.村人は皆逃げ,たった一人の背の高い白髪の老人が,石垣のある百姓家の庭先で,足の踏み場もない程に荒らされた衣類や農具を,涙を流しながら,石臼の横に片づけていた.

044そこへ,真っ黒い馬面に目玉をギロギロ光らした山原上等兵が,牛を叩き殺した真っ赤な血のしたたっている十字鍬(つるはし)を手にし「この老ぼれ!何をこそこそ集めていやがるんだ」とがなりたてると,今,老人がかき集めた衣類を,片ッ端から蹴っとばした.

「哄呀!」と叫びをあげた老人は,ころがるように二,三歩前に出るや,飛び散った小さな鈴のついた子供の靴をにぎりしめた.ふしくれだった大きな手を,ブルブル震わしている.

「チェッ,くやしかったら戦争に勝ってみろ!」と,どなるが早いか,山原は老人の腰を蹴りあげ,その顔にベッとツバを吐きかけた.

百姓家の中から,同年兵の金森7「そんなものをかまっているより,金目になるものを取らんと帰ってから淋しいぞ」と言いながら飛び出してきた. そこへ「おい山原,馬糧があったら残らず下の道まで,かつぎ出せ」と,悪い事にかけては抜け目のない赤髭の谷川8軍曹がどなった.

「チェッ,谷川の野郎,朝から女を探すのに血眼になりやがって,同年兵の俺に,馬糧を担がすとはもってのほかだ」と言いざま,山原は,そこにあったドビンを土間にガチャンと叩きつけた.

「おい山原,奴より先に女を探しに行こう」と,金森が目をギロッと光らした.

「そうだ,このへんのどん百姓は,皆,裏山に逃げているぞ……めぼしいものも皆,山にかくしているのだ」と二人は,大麦を家の横にあった肥溜めの中に叩きこみ,取り入れの終わっていない甘藷を踏みつぶして,山に登り出した.

突然,山の中腹の一軒家の方から「アーッ」という女の子らしいカン高い悲鳴が聞こえた. 「いる045ぞ」 顔を見合わした二人は,ニヤリと獣欲に燃えた笑いを浮かべ,飛ぶように山道を駆け登った.

毛虫の佐野9と,瘠の中川10が,十四,五歳と思われる少女の両腕を抱えるようにして引きずってくるのが眼についた.

「あそこだ!」 山原と,金森は,思わず息をはずませ駈け寄った.

「この尼め,ずぶとい奴だ!」とどなり散らす佐野と中川が,ハーハー息をはずませ,少女を引っぱってきた.

空色の服をピッタリ身につけた少女の,引きづられ硬直したような白い足に,血がにじみ,二つに分けた黒い髪の乱れた先に,真っ赤なリボンが落ちそうについているのが妙に山原の目にやきついた.

「不行,不行!」と,全身の力でもだえる少女の小さい肩が,鬼どもの手に,ワシづかみにされ,ピクピクとふるえている.

「フフン,いい姑娘だぞ」 山原の獣欲にみちた馬面が,ニヤリと笑った.

まなじりを下げ,鼻の下を長くした谷川が,「ウン,この姑娘なかなか良いぞ」と言いながら,汚い赤髭を少女の顔にすりつけるようにのぞき込んだ. 目を細くしてニヤニヤしている山原が「おい金森こいつ昨日のより遥かに良いぞ」と言いながら「オイ姑娘,年幾つだ」と気味の悪い目を光らせて少女の頭をつついた.

少女はクルリと身をひねると,歯をかみしめて下を向いた.真っ白い首筋に乱れた髪がかすかに震えている.

046平野11「こいつは強情な尼なんだ.おとなしく出りゃつけあがるぞ」とむき出した歯からツパを飛ばしながら少女の背中を蹴りあげた.

ガイ骨のようにやせこけた中川が「面をあげろ」と血なまぐさい手で細い少女の首をグイとしゃくり上げた. 少女はキッとして何か叫ぶか,ヤセの手を振りのけ,顔を激しくふり,怒りに燃えた目を,キラッと光らせると,歯をかみしめて下を向いてしまった.この時とばかりに山原は「貴様らがやる事はなまぬるくて見ちゃあおれん」と中川を押しのけ「小しゃくな真似をする尼だ」とどなりつけ,少女の胸を蹴り倒した. 少女はウーンと悲痛な叫びをあげ,地面に頭をうちつけた.

パッーとおさ毛が乱れ,赤いリボンが大地にふっ飛んだ.起きあがろうとする少女をすかさず山原は「こん畜生ジタバタするな」とがなりたてるや,小さくふくらんだ少女の胸を泥靴で押さえつけた. 少女は両手で泥靴をはねのけようとした.

谷川が「真っ裸にしてしまえ」とどなると,佐野と金森が少女に飛びつき,両方から手を押さえつけ,さもおもしろそうにガヤガヤ騒ぎながら服をぬがせ始めた.少女は額に油汗を流し,必死になって残された足でパタパタと蹴りつけてきた. 見ている二人は,手をたたいて喜んでいる.

谷川はさも満足そうに目を細くし「早くズボンもぬがしてしまえ」とどなった.

金森と佐野が「いつまでじたばたしやがるんだ」とがなりたて,両方からズボンを引きぬがし始めた. 少女は激しく体を横に振り,必死になってズボンを握りしめている.

「これはおもしろい」と言うや,山原は少女に飛びつき,力まかせにズボンを引きぬがした. 047ズボンはビリビリと音をたて,真っ二つにさけた.

地べたの上にあお向けに両腕を押さえつけられている少女のすき通るような白い肉体に,悪魔どもの獣欲に燃えた目が,一斉に向いた時,「鬼子」少女は押さえつけられていた腕をパッとはねかえすが早いか,そこにあった瓦のかけらを手当たり次第なげつけてきた.

谷川が「早くかたずけてしまえ」と言い終わらぬうちに山原は「この野郎思い知らせてやる」とどなりつけ,ピンピンと少女の顔をなぐり倒し,所かまわず蹴り転がした.

踏みにじられた赤いリボンの上に,ウーンと悲痛な叫びを上げて倒れた少女は,ズボンのちぎれをだきかかえ,身を守るように地面にしがみつき,苦痛と怒りに全身をぶるぶる震わしていた.

「おい,山原あんまりひどい事をやるとノビルぞ,これからが楽しみなのだ」と言いながら谷川は軍刀をキラキラと光らし,少女の目の前に突きつけ,毛だらけの手で真っ白い手をぐうんとつかむと,

「ジタバタすると叩き殺すぞ」とどなりつけ,百姓家に引きずりこもうとした.

少女は夢中でつかまれた手を振り切り,地面にしがみつき,半分に裂けたズボンを抱きしめて動かなかった.カッとなった谷川は鼻水をたらした赤髭をピクつかせ「強情な尼だ!!」とかみつくように言うと,少女の乱れたオサ毛をワシづかみにして立ち上がった. 山原はすかさず少女の握りしめているズボンを奪いとり,細い少女の腕をねじ上げ,傍らの百姓家に押し込み,谷川に先を越された忌ま忌ましさに舌打ちをしながら外に出てきた.内からは少女をものにしようとして鼻声を出したり「ピシピシ」と殴りつける音ゃ,ガタガタと物がひっくり返る音が,ウーンと息が止まるような少女の048苦痛の叫びに入り交じって聞こえている.

谷川の野郎,あんな小娘にてこずっていやがる!!」 山原が忌ま忌ましそうに言った.

「アッハッハッハ,そうやけを起こすなよ,今度は俺の番だ」 毛虫の佐野が言い出したことから,次は誰がやるかについて目をむき出して争い出した.

「姑娘は俺が捕まえてきたのだ」と,毛虫の佐野が入口に立ちふさがった.骸骨の中川が歯をむき出し「俺が先に見つけたのだ」と毛虫に食いつくように言うと,入口へ走り寄った. 「畜生ツ」と山原は馬面に青筋を立て,唾を飛ばしながら「淋病は一番後からやれ!!」と二人を押しのけ入口に突っ立った. すると中川と佐野は噛みつくような剣幕で「貴様ァ一番あとから来やがってとぼけるな!!」

と山原を外に突き出した.

そこへ谷川が「てこずらしやがった」とニヤニヤ赤髭をなでながら出てきた. 次に佐野が獣欲に燃えた目を「ギロッ」と光らし,背を丸くして飛び込んだ. 少女は必死に反抗しているのだ.

「この糞尼,ジタバタすると叩き殺すぞ!!」と言う佐野のどなり声と,ドスーンと蹴り倒す音が土間に響いてきた.

「ウウーン」とぶっ倒れる少女の,骨を削るような苦痛の呻きが絶え絶えに聞こえてくる.

中川や金森は,ますます荒れ狂う狼のように,次々獣欲を満たしていった.


一番あとにされた山原は,室内より聞こえてくる物狂おしい叫びに性欲を燃やし,満たされぬ欲望049に腹が納まらず,手当たり次第に椅子や水がめを叩き壊していたが,甘藷畑のはしでのんびりと芋を食っている水牛の姿を見ると,無性にしゃくにさわり,傍らの佐野の小銃を引ったくると「パン」と射ち込んだ.

弾丸は水牛の腹を射ち抜き,ダラリと腸が下がった.水牛は奇妙な悲鳴をあげると,物凄い早さで前に飛び出し,畠の端の谷底へ吸われるように落ちて行った. 山原が野獣のような欲望をもやして室内に飛び込んだ時には,少女の油汗に濡れた身体は,土にまみれ,屑や腰は殴られ蹴られ紫色に変色し,ところどころにすりむけた傷から血が吹き出し,かみしめた口から血が糸のように流れ,乱れた髪の毛が首に巻きつき,大きく肩で息をついていた.

「チェッ,奴ら遠慮なくやりやがったなあ」 忌ま忌ましげにつぶやきながら,山原は少女を無造作に抱きかかえると,寝台の上に寝かせ,顔をのぞき込んだ.苦痛に歪み眼を閉じた少女は,意識を失ぃ,時々びくびくと引きつけるように手足を動かしていた.

「馬鹿野郎,おとなしくすりゃあ痛い思いはしねえのに」といいながら,上からのしかかるように抱きつこうとした山原の顔に「媽……」とかすれた声で叫んだ少女の視線が止まった. 一瞬その眼は大きく開き,怒りに燃え,襲いかかる山原の右手を少女は血のしたたる歯で「ガブッ」とばかり噛みついた.

「アッ痛ぇ……」 飛び上がった山原は少女の横顔を「グワン」と殴りつけると,傍らにあった引き裂かれた服を少女の顔に押しかぶせると,その上にのしかかった…….

050「ウーン」 うめく少女の傍らに起き上がった山原は,右腕に焼けるような痛さを感じた.先程少女に噛みつかれた傷の歯形から血が流れている.

「こん畜生」 山原は少女の横腹を蹴り上げた.

「ウーム」 身動きできなくなった少女は,全身の力を眼に集中したように,その眼は怒りと憎しみに燃え,激しく山原をにらみつけている.ぞくぞくっと背すじに冷たいものを感じた山原は,やにわにそばに落ちていた高梁殻を拾い上げると,少女の陰部にのどまでとどけと突き込んだ.

「ギヤッ」 身動きもできなくなった少女は,耳をつんざくような悲鳴をあげ,ぐぐっと身体をのけぞらし,寝台の藁を掻きむしり,のたうちまわる姿を後にして,山原は表に出た. 山原が逃げるように表に出た時には,谷川軍曹らの鬼どもは,次の獲物を探し求めて行ったのか,誰もいない庭先には,真っ赤なリボンが折りからの秋風に吹かれてゆれているのが,炎のように彼の眼に焼きついた.

「ハッ」とし,真っ青な顔をした山原がそれを踏みつぶそうとするや,真っ赤なリボンは,少女の怒りの炎となって,大風口山に舞い上がって行った.


私は今,自らがかって中国人民に行った野獣のような蛮行を思う時,戦争のもたらした罪悪に,限りない憎しみを覚えるとともに,帝国主義軍隊の一員として悪虐の限りをつくした鬼畜の自己をのろわずにはおられない.そして,被害者である中国人民が深いかなしみに耐えて,加害者の私にさし示してくださった恩情に,奮起せずにはいられないのである.

051私は私の毒牙によってたおれた被告者の苦しみ憎しみ,そして燃えるような怒りを自己のものとして,今日なおあの恐るべき戦争を起こそうとしている帝国主義者どもに,断固闘争し,断じて戦争を起こさぬために,残された後半生を平和のために捧げて闘い抜く事を,中国人民並び世界人民の前に堅く誓うものである.

 

 

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1 Yamahara Ryôichi, Gefreiter (Pseudonym)
2 Hubei, Provinz
3 Wufeng, Kreis in Hubei
4 Liugupan (Liujiapan), im Kreis Wufeng, Hubei
5 Dafengkou, Berg
6 Wanggupan (Wangjiapan), im Kreis Wufeng, Hubei
7 Kanemori
8 Tanigawa, Feldwebel
9 Sano
10 Nakagawa
11 Hirano