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糧穀(りょうこく)の略奪
冷酷非情な取立て

引地章1(ひきじ・あきら)

警察署長


引地が旧三江2(さんこう)省依蘭3(いらん)県公署務科科附警正として着任したのは,一九四一年三月初めで,それからもう一年半もなろうとしていた.

七月中旬の真昼の太陽は,じりじりと屋根瓦を照りつけていた. うちつづく旱魃(かんばつ)に,道路は砂埃がたち,畑にある野菜の葉は黄色にかさかさとちぢみ,この分で十日も続いたら高粱(コウリャン)も粟も半作になるだろうと,農民たちの顔には暗い不安の色が浮かんでいた.

その日引地は,科長室で居眠りしていた. と,突然,机の上の警備電話がジリジリとなった.びっくりした引地は,「うるさいなあ………」とつぶやきながら受話器をとった. 双河4(そうが)警察署の高橋警尉からの電話である.

双河警察署管内三道崗5(さんどうこう)村の村長以下農民四,五十名の者が食料の問題で,今朝早く県へ陳情に057出かけました」 高橋の声は少しうわずっていた. 「そういう大事なことをいまごろ報告してなんになるかッ」 不機嫌に引地はがちゃりと受話器を置いた. そして「困った馬鹿者だ」とつぶやきながら特務股長(こちょう)をよぶ呼鈴を力一杯押した. 間もなく安藤6特務股長が入ってきた.いましがたの高橋の電話を話して,「君のほうへはなにも言ってこないのかね」となじるようにきいた. 安藤はけげんそう な顔をして,「いやなにも聞いていませんが………」と目をしばたいていた.

引地は大声で,「君の教育が徹底しておらんからだよ」と怒鳴りつけた. 安藤は「ハア」と息をのんで直立していた. 引地は煙草ケースから一本とって火をつけ,押しかぶせるように,佳木斯7(チャムス)市の食料が輸送の都合で間に合わないから,差し当たりの便法として,依蘭県の各村にある備荒用の糧穀二百トンだすことにした.これについては農民が相当動揺するかもしれないから,注意するようにと君にも話しておいたじゃあないか」 「あれは近く署附を呼ぶ予定であったので連絡してなかったんです」と安藤は長い髭をなであげながら無理な愛想笑いをした.

「それだから困るんだ.だいたい特務股長は県の耳だよ.しっかりしたまえ」と投げつけるように 言った. 引地はぶりぶりしながら,警務股長の渡辺8警佐と,石山9を呼び,口やかましく陳情者に対する対策を命じた.

間もなく県公署の前が騒々しくなり,馬車や,大勢の農民たちの姿が見え,警備隊員がしきりに農民を追い払っている.農民たちはこの炎天に,バスにも乗らないで,今朝から四十華里の途を歩いたり,交代で馬車に乗ったりしてきたのである. 高梁笠をかぶり,単衣の白とも黒とも見分けられぬ,ぼろ衣をきて,裸足のものや,ぼろ靴をはいている者もあった.だが彼らの手にはなにも058なかった.これは県城付近で,警備隊によって取りあげられていたのである.

やがて農民の代表として村長以下五名が,10(キョク)科長に案内されて入ってきた. 李11(リ)村長は,中肉中背で六十の坂を上回っていたが,頑丈そうながっちりした体で,眼は不屈の光を放っていた.たれさがった長い髭は,きりっとした顔とよくつり合って,しっかりした感じを人々に与えていた.

農民たちの代表は,李村長に早く話をきりだせと,眼で合図をしていたが,なかなか切りだす機会がなく,いらいらしている様子だった.村長はちょうど応対にでた副県長の早川12の話がとぎれたのをきっかけに,力強い調子で話しだした.

「去年は副県長も知っているとおり,八分作にも足らない作柄で,村民の大部分は,飯米にも困り,いまではわずかばかりの高梁や,莱の粥に,野草や包米のからの芯を入れて食べたりしている始末です」と言った.

早川は,「そんなことはみな同じだ.日本の兵隊も,飯をろくに食べないで苦労しているんだからね………」とうそぶいた. 李村長は,「実は今日までできるだけの方法で,食いつなぎをやってきたんですが,もうどうにもならなくなりました.そこで,このさい,義倉(ぎそう)を開放してもらえないでしょうか」と話を本筋に移していった.

「村民たちも,『死ぬか生きるかの瀬戸際だ,俺たちの粟だから,こんなときみなで分けて食うには,誰はばかることはないだろう』なんて言うのをやっとなだめてきましたで」と側の四人たちのほうへ目をやりながら, 「春先には,楡の若芽をとって食べたんで,楡も丸坊主になって枯れてしまいました.今度は畑や丘の野草も食いつくしてしまいました.うそと思うなら,いま県公署の前に059あのとおり四十人ほど来ていますから聞いてみてください」という. 四人の農民は,李村長の言葉に立ち上がって,なにか言いだそうとした. 早川は手でそれを制した. 曲科長もまあまあ腰をかけろと言ったので,四人はやむなくまたそっと腰を下ろした. 早川は丸く太った大きな腹をぶくぶくとさせ,頭をソファにもたせかけ,かすかにうす笑いを浮かべた.

「それは大変だぞ.県でさえ勝手に,義倉の開放命令は出せんのだ.そんなことをしたら,暗いところへ入る者が沢山でるからね.前線の兵隊のことを考えたら,それくらいの苦労はなんともないじゃあないか.このさい,ねずみでも,蛙でも,蛇でも,食えるものはなんでも食って辛抱していかなければいけないよ」

この暴言に李村長はじめ,五人の者はぶるぶるこぶしをふるわし,じっと奥歯をかんで,早川を睨みつけた. 李村長はおもむろに懐中から,封筒入りの陳情書を取りだし,早川の前にさしだした.

「副県長さん,みなで相談してこの陳情書になったわけです.これだけはなにがなんでもきき届けてもらいたいのです」

村長の目は異様に輝いていた.これが俺の辞職書だ,県との絶縁状だ,という決心の色がありありと現われていた. 早川が陳情書に目を落としたとたんに,李村長の隣りにいた,背の高い五十格好の,顔の細長い,目だけ光る農民が立ち上がって,早川と引地のほうを等分に見ながら, 「副県長さん,俺は,三道崗の本屯(ほんとん)の者だが,去年は旱魃と水害にやられただ,食うものも食わねえで,県のいうとおり八割出荷してやった.子どもたちにゃあ,着る着物も買ってやれなかった.おらあいま,家族五人で毎日,草の葉の入ったお粥ばっかし食っているんだ.こんなときぁ,あの俺たちの 060 積んでおいた粟を出してもらいてんだ.県に助けてくれとは言わねえ.俺たちの粟を,俺たちに食わせてくれと言うだけだ.お願いしますだ副県長さん」と言ったので,三人の農民も立ち上がって話しだそうとするふうだつた.

これを見た引地はきつい顔をして,双河鎮の(リュウ)署長は,そんなことを知っているかね………」と尋ねた. すると李村長が,署長にも再三相談してみたんですが,いまそういうことを言うべきでない」と言いかけて言葉をにごした. 引地は相変わらず不機嫌な顔をして,「警務科には署長からなんとも言ってこないよ,君たちはこんな陳情だなどと大勢で県に押しかけ不穏なことをすると警察は放っておかんぞ」と叱るように言って睨みつけた.

四人の農民はそっと腰を下ろした. 早川は陳情書を手に持ったまま,「今日はあいにく県長も病気で休んでいることだし,あとでゆっくり相談して,現地の調査をすることにしよう.万事はそれからのことだ.もうそろそろ小麦も食べられるようになることだし,豌豆(えんどう),馬鈴薯も食えるようになる.雨もそう長く降らないこともなかろう.こんなときはあくまで辛抱が第一だ」と徹底した気休めを言ってごまかそうとした.

「副県長さん,俺たちが食うものも食わねえで積みこんだのは,因るときのことを考えてのことなんだ.いまみんななにも食うものがねえんだ.トウモロコシの芯を食っているんだ.子どもは骨と皮ばかりになって,どんどん死んでいっているんだ.副県長さんお願いだ.義倉を開けてくれ」 農民の一人は立ち上がって切々と訴えた. あとのほうの言葉は喉に詰まって聞きとれないくらいだっ た.

061「わかったわかった,だから調査にやると言っているんで,いますぐにというわけにはいかないが,いずれ調査のうえ,省のほうにもよく話すから,まあ今日はいちおう帰りたまえ」 早川はうるさそうに手をふった.農民たちはこぶしを握り,歯をくいしばり,その瞳は憎しみに燃えていた.

四十数名の農民たちは,警備隊の歩哨を遠巻きにして県公署の内側をのぞくように,代表者と曲科長の対談を眺めていた. 陽はだいぶ西に傾き,炎熱の太陽が飢餓と失望と憎悪の怒りに燃える人たちの横顔を無情に照りつけていた.

引地は,先刻,早川がとぼけた顔で,このさい,ねずみでも蛙でも,なんでも食えと言ったことが可笑(おか)しかったので,「巧いことをいったですね………副県長………」と言ったら 早川は,「なあに君,農民の言うことをいちいち取り上げたり同情したりしたら,つけあがって始末におえないよ.少し前線の兵隊のことに関心をもたせ,苦労させてやらなければ,楽になったときはあたりまえのように思って,少しも感謝することもないからね」と言うのであった.


十月末ごろから県では強奪出荷着手の第一歩として,欺瞞宣伝にとりかかった. 引地は三道崗,双河,頭台橋13(とうたいきょう)の三ヵ村を受け持ったが,十二月中旬の寒い日に現地に出かけた.

宣伝班の一行は三道崗村民を,小学校の校庭に集めた.村長は陳情に県に押しかけた李が辞めさせられ,新しく王14(ワン)という男に代わっていた. 双河鎮の劉警察署長も ,いかめしい制服で立会っている. 引地は,コロコロした丸い体を,やおら壇上に運び,じっと村民をねめ回したうえで話しはじめた.

「大東亜戦争の戦利品,ジャワ砂糖を先日,各戸に一人当たり半斤(ぎん)宛配給した.これはみながよく062知っているはずだ.この戦争が終わったら,南方からいろいろなものがどんどん来るようになる.なにしろ南方は米が一年に三回もとれる.米でも砂糖でも,ゴムでも,果物でも安く買えるようになる.それに糧穀も出す必要もなくなる.日満人はアジアの指導者としてみな立派な地位につけるんだ.みなが大きな船に乗り,飛行機に乗り南方見物に行けるようになる………」 こんな子どもだましのような馬鹿げたことを喚(わめ)き立てた. 農民たちは,なにをでたらめぬかずかと顔見合わせ,苦笑していた.

引地はこんなことに頓着なく,エヘンと咳ばらいして,「もし私の言うことをきかないで出荷を忌避し,糧穀を隠匿したり闇に流したりする者があったら,容赦なく留置場や監獄にぶち込んでやる.だが,私はそんなことはやりたくない.みなさんも決して不心得を起こさぬようにしてもらいたい」 引地はこれくらいおどかしておけばよいと思って壇上を下り,傲然と腰を下ろしたところに,一人の農民が立ち上がった.この寒いのにところどころ綿のはみ出ているボロボロの綿入れに,下は綿の入らないズボンをはいて,茶色のお椀帽子をかぶった五十歳くらいの髯の伸びた,やせた男だった.

「おらあ三道崗の後街(うらまち)ちうもんだが,今年一垧(けい)半の作付に,二千六百斤の割当てだ.俺の土地は以前はよかったが村落に集家させられ,畑にぁ遠くなるし,肥料は思うようにならねえ,今年ぁ旱魃と雨で七分作で,やっと六割出したが,もうあとは出せねえ,出せ出せと言ったって,もうねえんだ.それに,日本軍に乾草(ほしくさ)を出せと言うんで,馬車に一台出したが,倭背15(わいはい)駅まで往復一晩泊まりだ.俺は馬車を持っていねえので,雇ったらこれに十五円取られたんだ.乾草代はたった十円だ.063ただ働いて五円損をした.出せ出せと言ったって,それは無理ってもんだ,俺たちは飢え死にしかけているんだ.ここんとこよく考えてもらいてえ」

農民たちの間に,そうだ,そのとおりだという声があちこちから起こった.こんどは後ろのほうの農民が立った. 四十歳くらいの黒の袷(あわせ)の短衣を着た男だった.

「俺は三家子(さんかし)ていうもんだが,半端の土地に一千二百斤の割当てだ.屯長や牌長んとこの割当ては楽だが,俺んとこは子どもが五人あるんだ.やっと無理をして半分出したが,それが精一杯だ.今年馬を売ってしまったので,馬車を雇って出荷しただが,この馬車代と興農合作社の強制貯金とかいうやつを差し引かれたら,金はなくなってしまった.少しばかりの綿布の配給票をもらったが,それさえ買う金がねえんだ.俺たちは糧秣(まつ)売ったときだけは子どもに着物一枚くらい買ってやりてえもんだが,この十年このかたそれもできねえ,間もなくお正月が来るというのに着るものもなく,ふるえているんだ.それだけじゃねえ.食うものだって………」 終わりのほうは泣き声になり,黒く汚れた大きな手で溢れ出る涙を横なぐりにぐいと拭いた. 農民の中には我が身につまされてか,もらい泣きする者もあったが,やがて四,五百人の者が,がやがやと騒ぎ出した. 「そうだとも,そうだとも,まったくだ」と,言うのである.

劉署長がこのさいとばかり大声で「静かにしろ」と怒鳴りつけた. 引地は通訳からこの話を聞くと,真っ赤になっていきり立ち,眼を三角にして怒鳴りつけた.

「お前たちはなんということを言うのかッ,お前たちがいま生きているのは誰のおかげだ,みな日満軍警があるからではないか.命を誰が守ってくれているのか.貴様たちは犬や獣ではないだろう,064それくらいは考えがつくはずだ.日満一徳一心と言うが,日本と協力して日本の戦争の勝利に感謝する考えが少しでもあったら,三度の飯を二度にし粥をすすっても辛抱できるし,日本軍に出す乾草も,半値でも光栄ではないか.文句を吐く奴は抗日反満分子だ.そういう奴は徹底してやっつけるぞッ」 その二度の飯も,お粥も満足に食えないのが農民の実状なのだ. そんなおどかしでは納得できない農民たちは,まだそこここで盛んに話し合っている.

引地は,これ以上長居をしたら,またなにを言い出すかしれないと思ったので,「さあ帰ろう」と,小さく丸く太った不格好な体の肩をいからせ,日本刀を手に引き揚げた. 農民は憤怒に燃える眼でその後ろ姿を睨みつけていた.

夕方,三道崗村から双河警察に到着した引地は,村長宅に一泊した. 翌朝,田舎には珍しい,旨(うま)い中国料理で焼酎を飲み,一杯機嫌で警察署を巡視した.巡視ということは糧穀強奪を徹底的にやるために螺子(ねじ)を巻くことだった.

引地は間もなく劉署長以下七名を連れて,依蘭から勃利16(ぼつり)駅へ通ずる双河鎮大街の十字路に向かった. いましもバスが二台,満員の乗客を乗せて出発しようとしている. 引地はバスの車掌と警乗員に,二言三言,連絡をとり,検索開始を命じた. 一台に四十名以上も乗っている.それを荷物を持って一人ひとり下車させ検索するので,車内はごった返しだった. 子どもは泣き叫ぶ,腰の曲がった老婆は押しひしがれる. 荷物は,かばん,小箱,風呂敷,布団の類だが片端から解かせて検査するので相当時間がかかる.白麺五斤,粟十斤,餅黍(もちきび)三斤,白米八斤,朝鮮人の飴十斤とか,高梁米十斤,小豆五斤,餅子二十個などが出た.予想外の獲物だと引地は,餌(えさ)にありついた狼のように,前の車 065 へ行ったり後ろの車へ行ったりして,それを聞けろ,これをやれ,口やかましく指示して,どうだと言わんばかりの自慢顔をしていた.この暴圧に,ひっかかった者は合計十二名であった.

劉署長はおそるおそる,「軽微な者は帰してはどうですか,警正殿」と,言った. 引地は目をつり上げ,「黙れッ,全部署ヘ同行するんだ.経済保安主任が取調べをやれ.あとで情況を聞くことにする」と,警察署ヘ同行させてしまった.十二人の人たちは代わるがわる劉署長や経済保安主任に,品物は出しますからバスに乗せて帰してくださいと,頼んでいたが,県の警正が許さぬからと叱りながら連れて行ったのである.

引地は,劉署長と一緒に署へ帰ったが,控え所に十二名がずらりと並んでみな困った顔をしていた. 引地は憎々しげにそれを見ながら,「どうだ」と言うと,みなは丁寧に頭を下げ,「どうも申し訳ありません.こんなことは二度と致しません」と下を向いた. 「お前たちは,お詫びをすればそれですむと思うか,ウム,いまどんな時局か?子どもでさえみな,戦争に勝つために辛抱しているんだ.お前たちこういうことをやっていいのか,この馬鹿者! 非国民めがッ!! おい経済保安主任! かまわないから一人も残らず事件を送致してひどい目にあわしてやれ,いいか」と,ひとにらみして,団子のような体をころがすようにして,署長室に入った.

経済保安主任は「ハイッ」と畏(かしこ)まって後ろ姿を見送り,そして留置場に入れられたのか,子どもの泣き声が廊下を伝わって聞こえてきた.しばらくすると経済保安主任は署長室にやって来た.

「警正殿」

「なんだ………」

066 言いにくそうだったが,口をゆがめ目をつぶるようにして,「あの,白麺三斤と,餅黍三斤を持って子どもを抱いている中国婦人は,子どもが百日咳で,相当熱があって容態が悪いし,所持品は久しぶりで帰った実家の生母から土産として,嫁入り先の老母と夫に食べさせるようにと貫ってきたんだそうで,それからあの朝鮮飴を持っていた朝鮮人も,佳木斯(チャムス)の母親に土産に持って行こうというわけで,量は少し多いが,説諭を加えて帰してやったら」

引地はまた窪んだ目をむき出し,「馬鹿ッ!何回そんなことを聞くんだ.現在の重要政策の違反だ.情実を考えていたら駄目だ.重刑にするんだ.文句を言わず送致しろッ.この取締まりが徹底せんと,出荷の成績があがらないんだ.子どもが病気なら,嘱託医に見せておけ.それで子どもが死のうが,どうなろうが,自業自得だ」と,怒鳴りつけた.

この日警務科から電話があって,県に帰って来るなら,今朝興隆17(こうりゅうちん)を出た県の半乗用トラックが,呉(ウー)新任警務科長を乗せ帰る途中,双河署に回すよう手配するというので,赤沢開拓股長と二名の中国人工作者を残し,引地は双河署から帰県することにした. 乗車台には,引地と呉鎮演(ウーチンイン)警務科長,トラックの上には,興隆鎮曹署長と二名の警察官だけだった. 引地はトラックから降りて,曹署長たちになにか話ししようと彼らのところへ上がって行ったが,彼らはなんとなくそわそわしていた. 引地は少し変だぞと,例の刑事根性を働かせ,薄闇をすかして見ると,稲藁(わら)が積まれ,その下に麻袋らしいのが積んであった. 引地は署長にあれはどうしたのかと尋ねた.曹署長は,「これは私と森林18隊長と相談して,科長殿と警正殿と警務科員に,正月用の餅米五袋,小豆二袋,白麺五袋,ほかに猪三頭持って来たのです」と,言うのであった.

067 引地は内心うれしかったが,故意に渋い顔をつくって,小声で,「時が時だ,よく注意してやらないと困るじゃないか」と,言いながら,こそこそとトラックから降りて乗車席に帰り,無言のまま,なに食わぬ顔で呉科長と並んで腰を下ろした.

やっとトラックは勢いよく走り出した.もう四辺は暗く,ヘッドライトの光だけが南大橋19(なんだいきょう)の,依蘭県城郊外の大道を照らし,城門さして走っている.


一九四三年一月,県民が,収穫物のほとんど全部を強奪され,飢えと寒さで死にかかっているとき,依蘭県公署の日本人官舎は,三味線入りで,飲めや歌えのドンチャン騒ぎをしていた. 彼らの正月である. 早川20と引地の家の玄関には,薦(こも)かぶりの四斗樽が据えであった. 県整備委員会は,県民に対する配給物資を二割天引きしているので,なんでも自由にできるのである.川魚は泥くさいといって,肴は鯛に鮪,獣肉は神様に対して穢れになるからと,引地の家の倉庫の中には,猪十五頭,鹿二頭,雉子二百羽が積みこんだままになっており,米も果物も山とあった.だが,約十日間の酔いがさめると,早川も引地も,盗人が昼寝からさめたように,あわてだした. 出荷は,やっと七十パーセントを少し突破しただけだからである.

早川は,省割当ての九万六千トンを,一粒でも欠けることは,自分たちの面子にかかわるし,依蘭県の名誉に関わる,三江の穀倉地区としての地位に関わるというつまらぬことを言い張って,農民の悲嘆の生活など,考えてみようともしなかったのである.彼らは,もうこうなれば農民が餓死しようが,そんなことで手心を加えていたら,自分たちの首にかかわるし,戦争に勝利することが 068 できない. どうでもやらねばならない. あと一万六千トンを,どんなことをしてもふんだくらなければならない.

いよいよ引地の計画になる略奪は,一月二十日から全県一斉に始まった.北満の一月二十日ごろの寒さは,零下二十度から三十度を越える日が多く,野も,山も,畑も,川も,カンカンに凍りつき,吹く風は細かい砂まじりの雪を吹きとばし,路傍に吹きだまりをつくった.

ここは,依蘭県永発21(えいはっ)村村公署所在地の永発屯である. 村公署の隣りが分駐所で,大平鎮22(たいへいちん)に通ずる県道に跨(またが)り,道の両側に約百四,五十戸の農家が集家している. 県城からくりだされた引地の指揮する百余名の検索隊が,三台のトラックに分乗して,午前八時到着した.

引地は,この日いかめしく着装し,農民を脅かしてやろうと,拳銃,双眼鏡,水筒,図裹(ずのう)など,腰のまわりには弁慶の七ッ道具をいっぱいぶら下げ,まるでポンチ絵の豆狸のようだつた. 先頭の車から飛びおり,長い日本かたなを手に持ち,出迎えの人たちを尻目に,村公署に入っていった.

村公署では,県の工作員を交え,いろいろ相談していたが,なかなかまとまらなかった.警察を入れずにやれるかどうか,二,三日たてばなんとか見とおしがつくが,現在決定しかねるというのである. 県の工作班長らは,農民事情はよく知っているが責任を自分で負いたくない,そうかといって警察を入れることは極力さけたいという下心であった.短気な引地は,我慢ができなかったので,独断で検索開始を命じてしまった.百余名の検索隊と現地の警察,自衛団を加えた十二ヵ班は各地に配置された. 村公署のある永発地には二ヵ班の検索隊を入れ,そして引地は,この検索隊について村落を駆けめぐったのである.

069 西方の村はずれの農家から始めた,23(リン)警尉の指揮する第一班は,第四戸目の中農の家構えの中に入っていった. 林警尉は,三十五,六歳と思われるここの息子や老婆と問答していた. 息子は痩せた背の高い顎骨の出た男で,眼だけが光り,つぎはぎだらけの綿服を着て庭に立っていた.老婆は,二歳くらいの男の孫を抱いていた.

息子は,眼をキラリとさして,「去年の出荷は食料が足らなくて,地主から三割五分の現物利息をつける約束で糧穀を借り,やっと返しただ.今年は八分作でやっと七割出したが,もうこれ以上出せねえ」と,言った.老婆も,「もう正月が来るのに,情けないこっちゃ.来年の春耕に食料はなくなるし,馬は痩せて働けなくなる.どうしてくれるか」と,なじるように言う.

「俺は,そんなこと知るもんか.出すか,出さんか返事しろ.出さんなら三ヵ月分残して,あと全部,種子までとりあげるぞ」 息子は,暗い深刻な顔をして,だまって下を向いた.

「そんな無茶なことはねえ.種までとられたら,あとはどうするだ.死ぬよりほかはねえ.あんたは中国人でないかえ.あまりひどいでねえだか………」と,老婆は言う.

「そんなこと,俺の知ったことでない.命令だ」

検索の情況を見るために入ってきた引地が,何気なく外をのぞくと,いましも五十七,八歳くらいの老人が納屋からアタフタと出てくるところだった. 《これは変だぞ》と思っていると,また老人は納屋に入っていき,まもなく出てきて,知らぬ顔して母屋(おもや)へ入ってきた. 引地は,とぼけたように,「お前は,どこのものか」と,きいてみた.

「ハイ,私はここの老人でさあ」 「そうか」と,引地は軽くうなずいて見せた.

070  林警尉は,穀物倉庫へ息子をつれて行った.息子は,倉庫の板をはずして「見てくれ,五人家族でこれだけしか残っていねえ,今年の秋までなに食うだ.出荷のねえときは,この倉庫に半分以上あっただ」と言った.

「昔のこと言うてどうなる.おい,これを計算しろ」と,班員に命じた.

引地は,警尉ッ」と怒鳴った.

「ハイッ」

「もう,倉庫はあとまわしだ.全部捜索して,それからだッ」 林警尉は,直ちに部下に命令を下した.母家のオンドルのアンペラはひったくられる. 天井にある細かい吊るした袋,種物,小豆,ササゲ豆,ふくべは投げだされる. 大豆,小豆,ササゲ豆が土間一杯に散らばった.老婆は,子どもをオンドルに寝かせて,かき集めようとする. 班員の李警長が,足で老婆の腰をドシンと蹴った.

老婆は悲鳴をあげ,うつ伏せになり,土間の衣類櫃(びつ)のところでしたたか頭をうちつけて,「ウーン」と,うなっている.子どもは泣きだす. 壁をドシンドシンと突いて,とうとう突きくずしてしまった. 積んである粟殻をひつくりかえす. 高梁殻をプツリプツリと槍で突き刺しているものもいる. 引地は,李警長に,「おいっ,あの納屋を調べろ」と命じた. 李警長は,外の班員とともに納屋に走っていった. 息子は,垢のついたヒビ割れた大きな手を固く握り,つり上がった眼を光らし,ジロリと引地を睨んだ.

引地は,「おい,貴様ッ,うそを言うたらひどい目にあわせるぞ」と,日本刀をグッと前に突きだし,傲然とふんぞりかえった.息子は,プイと横を向いてしまった. 李警長はもどって来て,071「警正殿,あの納屋には,なにもありません」「ようし,俺が行ってみる」,なるほど,なにもなかった. アンペラを一枚敷いて,その上に糧穀の吹きとばした渣(かす)が三斗ほどあるだけだ. 《どうもおかしい》と,アンペラ二枚立てかけてあるのを,ドシンとひき倒して壁のところを見たが,異状がない.

敷いてあったアンペラをズルズル引きずって,土間を見た.藁や籾(もみ)くたが一面散っている. 刀の鞘(さや)でトントン叩いてみると,少し音が変だ.そこへ林警尉が入ってきた.

警尉,ここを掘ってみろッ」 林の命令で,班員がスコップと鍬を持ってきて,掘り返しはじめたが,二尺ほど掘ると,「ある,ある」と,騒ぎだした. 先刻の息子は,逃げ出そうと表のほうへ駆けだした. それを班員が引っ捕え,「この野郎ッ」と,わめきながら,靴で散々蹴っている. 引地は,つかつかと歩いて行き,「コラッ,貴様,うそ言ったなッ」と怒鳴り,長靴で尻を続けざまに蹴った.

「警正殿,麻袋が三袋出てきました」

「そうか,よーし,こいつ太い野郎だッ.大うそつきめッ」と,また三つ四つ蹴とばしたが,息子は,歯をくいしばって声を出さなかった.

ッ.これを頭台橋に送ってやれ.そして留置しておくんだ.それから,糧穀は全部,種子もとりあげるようにしてしまえ」 やがて息子は,警察と自衛団によって捕縄(ほじょう)をうたれ,送られていった. 老婆は,地べたにキチンと跪(ひざまず)き,頭を地にうちつけるようにして,「大人 (タイジン),糧穀はみな持っていってもよいから,息子だけは返してくれ.大人,お願いするだ,大人」と,哀願した. 引地は,フフンと鼻の先でせせら笑って,「うるせえ,この老いぼれめがッ」と言うなり,靴で蹴とばし,072くぼんだタニシのような眼で睨みつけ,家を出た.

空はどんよりとくもり,骨をさすような寒風が吹き荒(すさ)んでいた. 生き抜くために守ろうとした糧穀を奪われ,種子まで奪われた親子にとっては,この無情の風にもまして引地の鬼畜ぶりは呪わしいものであった. 引地は,ふてぶてしくほくそ笑みながら,よい指導をやったと喜んだ.

警尉,遠慮もなにもいらないぞッ.こういうふうにしてドシドシやるんだ.晩まで二ヵ村終わらないと困るんだ.明日は,太平鎮金沙河24(きんさほ)村をやるんだから,いそいでやれッ」と,言いすてて,分駐署に向かった.

分駐署にもどると,李警佐が「電話です」と言ってきた. 大平鎮警察署の押川25警尉からの電話だ. 《いま,署の特捜班が倭背河の草原で,二名の柴刈りに扮した農民を捕え,糧穀十数袋を発見した.量としては大したものでないが,いま,留置し取り調べている》とのことであった.

「すぐ行くから待っとれッ!」と,引地は電話を切った.

引地らのトラックが大平鎮の街の入口までくると,驚いたことには,警察自衛団,学校生徒,地方民がずらりと堵列(とれつ)出迎えている. かれこれ一千人もいる. 「こんな馬鹿さわぎをしてはいけない」と聶26(ジョウ)警察署長を叱ってみたが,いまさらどうにもならないし,まんざら悪い気持ちでもない.折角だからというので,トラックを入口のところで停めて,小さな体を肩いからせ,ゆうゆうと敬礼を受けて通った. ここの農民や商人たちは,恐ろしい奴が来るから,よく見ておけというのであった.だが引地はそんなことは一向考えなかったし,むしろこんなお祭りさわぎで出迎えても,やることはやるんだ,ここは穀倉地帯だ,明日は今日の不成績を挽回しなければならないと考えていた.

073 住民たちの行列は,署のところまで約半キロも続いていた. 引地の日本刀ゃ,双眼鏡,水筒,赤革の図嚢や,堅胴の長靴に拍車という狂気じみた姿を,珍しいというよりは,憎々しげに,じろじろと見ていた.それは「これが日本鬼子の強盗めか」と言わんばかりの態度だった.

署長室に落ち着いてから,村長の紹介で沢山の鎮民の主だった人たちのあいさつを受けた.今晩は歓迎会を催すから,ぜひ出席してくれとのことだった. 引地も早川から,中央農産公社の工作費を相当もらってきているので,返礼の宴会を明晩やり,そしてまた,彼ら幹部にも飲ませ,大きな仕事をしてやろうと腹黒いことを考えていた.

村長たちが引きあげるとさっそく,「先刻の糧穀を隠匿した奴らを,留置場からひっぱり出し,取調べ室につれてこい」と命じた. 李警佐,王経済保安主任,押川警尉の三名をつれて取調べ室に入った. 引地は,蛇のような陰険な眼を吊り上げ,留置場から引き出された農民の姿を,じろりと睨んだ. 「そこへ,座れ」と怒鳴りつける引地の体からは,不気味な妖気が立ちのぼっている.農民は,恐怖と憎悪の入り混じった眼で上眼づかいに引地を睨んだ. 「こらっ,ほんとうのことを言うか,どうだ,言わなければあれだぞっ」と,責め道具をさした.

農夫は,観念したように,「なんでも知っていることは申しますだ」と,素直に答えた.

「あの糧穀は,お前のものだろう」

「そうですだ,だが俺一人のものではねえだ」

「ウーム,そうだろう,全部で何人か」

「十一人ですだ.今朝来ていたのが四人ですだ」

074「事情をくわしく話せ,うそを言うたら,あれだよ.よく正直に話すんだぞっ」引地は,また拷間道具をさす.

彼の語るところによるとこうである.………

………農夫は,金沙河27村本屯の西端の十一斑に住む白玉省28〈ハクギョクショウ〉という.この組は,みな一城(せい)以下の耕作をしている小作人ばかりであり,今年は,作柄が悪かったので割当てを供出したら,あとに残ったのは五ヵ月分の食料と種子だけだった.村の人たちの風評を聞けば,出荷の完了しない者は警察が来て残っている糧穀を持っていくという,そこで隣り組で相談の結果,三ヵ月分の食料を残して種子と若干の糧穀を隠した.そのため女や子どもの衣類,ズボンまで解いて袋を作った. そして大勢が張り番していると人に怪しまれるので,交代で草刈りのようなふうをして見張りをしていた. 来年蒔く種子だけはなんとか勘弁してもらいたい.

白は,こう言うと,ボロボロ涙を落とした.

「うそ吐(つ)け,貴様らはもっとほかに隠していることがあるだろう,みな言えッ」

「百姓は,うそなんか言わねえだ.俺たちは,その日暮らしの貧乏人ですだ.このなりをよく見てもらえば,わかるでねえだか」

「そんな泣きごとにだまされてたまるか,押川,こいつもぷっ叩け」

押川は,白のズボンを脱がせ,竹刀で殴りつけた. 引地に教えられたとおりにやったのである. そこへ聶署長が入ってきた. 若い,顔の蒼白い,痩せた五尺くらいの男である. 彼は,引地の機嫌をとるように,金沙河の農民は,思想が悪いので申し訳ありません」といいわけをすると,今度は,075 白に向かって,「コラッ,貴様たちは,誰にそんなことをやれと教えられたか,この馬鹿者めが」と,その横腹を蹴とばした.

聶は,中国人であり,中国農民の生活が,どんなに悲惨なものであるか,この強盗的供出が,どんなに罪悪的なものであるかを百も承知しているのである.そして農民の反抗が,いかに正当なものであり,またいかに熾烈なものであるかも充分知っていたのである.

「いま,検索隊が着きました.それから警正殿,太平飯庖で村長や商務会長が,みな待っています.今晩は,警正殿が正賓(せいひん)で大した準備がしてあります」

聶は,いやしい笑いを浮かべながら引地の顔をのぞきこむようにした.

「うん,検索隊の幹部がそろったら出かけよう」と答えた引地は,署長室に入ると,どしんと乱暴にソファに腰を下ろした.煙草ケースから前門(チェンメン)取り出して火をつけ,いらいらした気持ちをなんとか押えようとしている.

《明日は,倭背河の草原の大捜索と,大青山の山地のあの中共依蘭県委の残党の糸をひく農民たちの大検索をやってみよう.それに,金沙河村を徹底してやる.だが,どうも今度の工作はむずかしい,ひょっとすると俺は大きな失敗をするぞ.予定の半分もかき集めることは,できないかもしれん.だが,やらねばならぬ.のりかかった船だ,無理だろうがなんだろうが戦争に勝つためだ.俺の立身出世だ,首にかかわるんだ.若い娘が裸でいようと,子どもたちが飢えと寒さにふるえていようが,貧乏人が泣いていようが,かまうもんか》

ここまで考えると,引地は,そのふてぶてしい顔を歪め,蛇のような眼のふちに毒々しいうす笑い076を浮かべた.


筆者からの一言〈昭和五十七年七月

私は,一九五六年八月十八日,中華人民共和国最高人民検察庁の寛大な政策により不起訴処分となり,即日釈放され,一九五六年九月五日舞鶴29上陸,帰郷いたしました.

私は当年八十歳,宮城30県角田31市校野字品濃四七の三にて農業を営んでおります.耕作四十アール,農業をやりながら,日中国交回復署名一千二百余を社会党国会議員西宮弘32氏に依頼請願,昭和三十二年三月に完了いたしました. また,日中友好協会に入会し,『人民中国』月刊誌を購読しております.そのほか,角田市老人医療無料化,三歳児以下の医療無料化に協力,これを実現いたしました. また,農民組合の結成,児童の水害事故をなくすためのプール設置,水稲,養蚕農家救済のための請願,草新系各級の選挙等に協力いたしております.

私は大衆に奉仕し,中国人民の寛大な政策を忘れることなく,日中友好反戦平和を目ざし,終世変わらないことを誓います.

引地章33

 

 

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1 Hikiji Akira, 警察署長

2 Sanjian, frühere Provinz

3 Yilan, Kreis bei Harbin in Sanjian

4 Shuanghe, Gemeinde in Yilan

5 Sandaogang, Dorf und Gemeinde in Yilan

6 Andô, 特務股長

7 Jiamusi: Bezirksfreie Stadt in der Provinz Heilongjiang und deren wirtschaftliches und kulturelles Zentrum, "östlichste Stadt Chinas"

8 Watanabe, 警務股長の渡辺警佐

9 Ishiyama

10 Qu, 科長

11 Li, 班員の警長; Li, 警佐

12 Hayakawa, 副県長 von Yilan

13 Toutaiqiao, Dorf und Gemeinde in Yilan

14 王経済保安主任

15 Wobei, Bahnstation und Fluß, Wobeihe 倭背河

16 Boli, Bahnstation

17 Chinglong

18 Moribayashi, Truppenführer 隊長

19 Nan/Na-dai/da-qiao

20 Hayakawa, 副県長 von Yilan

21 Yongfa, Dorf in Yilan, Station

22 Dapingzhen (Daipingzhen) oder Taipingzhen

23 Hayashi, 警尉

24 Jinshahe, Dorf

25 Oshikawa, 警尉

26 Nie, 署長

27 Jinshahe, Dorf

28 Bai Yusheng (Yuxing)

29 Maizuru, Hafenstadt, Präfektur Kyôto

30 Miyagi, japanische Präfektur

31 Kakuda, Präfektur Miyagi

32 Nishinomiya Hiroshi

33 Hikiji Akira, 警察署長